人材確保に困らない「採用のブランディング」とは?
株式会社ジリオン
取材:砺波敬之、染谷朋江
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
設立3年とまだ若い会社ながらも、「大衆ビストロジル」「大衆ビストロ煮ジル」などの繁盛店を次々と立ちあげている株式会社ジリオン。「同業他社と比較して、給与水準が非常に高いというわけではない」という同社だが、人材採用で困ったことは一度もないという。同社代表取締役 吉田裕司氏にお話を伺った。
※「HERB診断」は「tenpoket」に名称変更しました。
――最初に、株式会社ジリオン創業時の思いをお聞かせいただけますか。
立ち上げの際に考えていたことは、大きく二つあります。
一つ目は、「自分の好きなお客さまだけに、自分の好きな信頼できるメンバーたちと、自分の好きな商売をやりたい」ということです。
そしてもう一つは、「『店』ではなく『会社』にしたい」ということです。私は以前、サントリーの子会社(当時)のミュープランニングにおりましたので、しっかりした労働条件の下で働くことが働く本人やその家族に対して安心感を与え、結果として長く働き続けられること、企業側の視点で言えば離職率の低下につながることを実感しています。ですから、どうしてもその辺りの管理が甘くなりがちな飲食業界においても、一般企業のレベルで従業員の労務管理を行うことを自分のルールとしました。それが、「店」ではなく「会社」という意味です。
お話を伺った、株式会社ジリオン代表取締役 吉田裕司氏。
――「長く働き続けられる会社」を目指されている一方で、スタッフさんに対して「独立」という選択肢を積極的に示されているように見えます。
独立を推奨しているわけではなくて、「独立を目指すスタッフには、それを実現できるだけの教育や環境を提供します」という話ですね。
あくまでも一般論ですが、飲食業界には「人を育てる」という考えの企業・店舗が少ないように思います。飲食業界は雇用のサイクルが早くて、1年でスタッフの大半が入れ替わってしまうことも少なくありませんので、そういう考えになってしまうのも仕方がないのかもしれませんが、入社時のスキルが30だとすると、30のままで何とか1年保たせるための施策を講じているのではないでしょうか。
その点で弊社は、入社時のスキルは1でも良いと思っています。もちろん、本人に「今は1でも、絶対に100になるんだ」というモチベーションやビジョンがあることが前提ですが、そういう人に対してであれば、弊社は1を100にするための知識や技術、環境を提供することを約束できます。その人にとっての「100」が独立開業なのであれば、それを応援します。そのため弊社では、成長したスタッフが巣立っていっても大丈夫なように3年サイクルで採用計画を立てています。
それが独立であれ、社内でのキャリアアップであれ、100を目指す人というのは、プロとして速く成長します。そうしたプロの集団でなければ競争に勝つことは難しいですから、そのための制度を整えることは会社として非常に重要であると考えています。
スタッフ向け勉強会「虎の穴」。料理の技術から、独立開業を目指す人に向けた事業計画書の勉強会まで、スタッフのキャリアプランに応じて幅広いテーマで開催されている。
――採用環境が厳しい中でも御社は計画通りの採用を実現されていますが、どのような取り組みをなさっていますか?
一言で言えば「採用のブランディング」をしています。店舗を出すときには、皆さん当然「ターゲットをどうするか」「どういう商品を提供すればターゲットに響くか」など店のブランディングを考えられると思うのですが、それを採用でもやるということです。
同じ媒体に同じエリアの飲食店同士が求人を出したら、時給が高い方に人は流れます。そうなると、私たちのようなベンチャー企業は大手には絶対に勝てません。仮に何とか給料を上げたとしても、「給料の高さだけで働くところを決める人」、つまり弊社の採用におけるターゲットとは異なる人材しか集まらないでしょう。
そこで弊社では、「当社では(スタッフに対して)どんなバリューが提供できるか」、「それをどうやって伝えるか」など、採用におけるブランディング戦略を考え、それに沿ってホームページを作りました。また、今はフェイスブックや食べログなどネット上にいろいろな情報ソースがあって、店の雰囲気や料理の品質といったことも含めて多面的に判断してもらうことができるようになっているので、そういった部分からもお客さまだけでなく、仕事を探している人に対してもロイヤルティを獲得することができています。
その結果、弊社では「ホームページを見ました」といって応募してくれる人も多く、近隣の他店舗と比べて時給が高いわけではありませんが、人が不足したことはありません。
大衆ビストロジル 目黒店
――御社では一年前から弊社のミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)と従業員満足度調査「サービスチーム診断」を導入していただいていますが、それぞれどのように活用されていますか?
弊社では、「CS(顧客満足度)だけではなく、ES(従業員満足度)とFS(家族満足度)を加えた3つの指標全てにおいて、100点満点を取る」ことを使命として掲げています。
そうした中で、まずMSRは「CSに関する客観的な事実を集める」ためのツールとして使っています。私たちの取り組みを定点観測する上でMSRの数字は非常に重要だと考えており、MS&Consultingさんの標準版の設問の他に、自分たちが目指す姿に合わせた設問項目を追加し、その設問に関しては常に「満点であること」を目指して取り組んでいます。
「チームtenpoket」についても基本的には同じです。「ESの100点満点」企業になるためには、あらゆる事実を集める必要があると考え、そのための一つのツールとして導入しています。ただ、MSRは良くも悪くも「大勢いらっしゃる中の、一人のお客さまのご意見」という視点で受け止める必要があるのとは逆に、「tenpoket」は一つひとつの数字を謙虚に受け止めなければならないと考えています。
MSRで200点満点を取るよりも、tenpoketの一項目で5点満点を取る方がはるかに難しいですが、採用のブランディングという意味でも、弊社が目指す使命としても大切な部分ですので、今後も引き続き取り組んでいきたいと思います。