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業績を長期的に安定させる鍵は、データによる『各店舗の力量』の見える化

業績を伸ばす最善の打ち手は?この問いの答えをデータからも判断できた場合、打ち手の精度はどれだけ高まるのでしょうか?『データによる各店舗の力量の見える化』を進めている、株式会社プレジャーカンパニー、教育担当 遠山啓之氏にその取り組みを伺いました。


―『データによる各店舗の力量の見える化』を進めているのは何故ですか?

データの整備を進めているのは舗業績を抜本から改善してくれる打ち手」を見つけるためです。

業績を長期的に安定したものにするためには、下記のような、チームの力量を底上げしてくれる打ち手が必要です。

  • 顧客満足度を高め、再来店率を高める
  • 従業員満足度を高め、スタッフ定着率や生産性を高める

これらの抜本的な打ち手は、売上・利益といった結果指標だけを見ていてはなかなか発見できません。「結果指標」につながる「先行指標(結果に先行して変動する指標)」を探し出し、マネジメントに活かすことが重要だと感じています。


【図1】結果指標と先行指標
【図1】結果指標と先行指標


―どんなデータを見える化していますか?

「業績」「顧客満足」「従業員満足」、この3つの指標は影響し合うと考える「サービス・プロフィット・チェーン」という考え方があります。この「サービス・プロフィット・チェーン」の状況を見える化しています。


【図2】サービス・プロフィット・チェーン
サービスプロフィットチェーン(1994年にへスケット教授、サッサー教授らによって示された従業員満足(ES)・顧客満足(CS)・業績の因果関係を表したモデル)

具体的には、次の3つのデータを見える化しています。

【見える化①】   再来店率×QSCスコア

見える化しているデータの1つ目は、「再来店率(顧客のリピート率)」と「QSCスコア(クオリティ・サービス・クレンリネススコア)」のかけ合わせです。

この先、今まで以上に重要な経営指標になると感じているのが「再来店率」です。コロナ禍となり新規顧客の獲得が非常に難しくなったためです。

コロナ禍で弊社でも常連様の来店頻度が「数カ月に1回」から「数週間に1回」へと増えました。お客様の行動が、「安心して利用できるお店に繰り返し行く、新しいお店には行かない」へと変化していると感じています。立地にもよりますが、新規頼りの経営では立ち行かなくなる、常連様づくりがより重要なるということです。


【図3】コロナ前とコロナ禍における「外食したいと思う条件」の変化
⇒お客様はコロナ禍で「行ったことのない飲食店」には行きづらくなっている

【図3】コロナ前とコロナ禍における「外食したいと思う条件」の変化|(株)MS&Consulting提供
※調査:2021年4月20日~4月26日(n=1228)、設問:あなたは今後1ヶ月間で外食をするなら、どんなお店に行きますか?で各選択肢を選択した比率(複数選択可)


ただ、「再来店率のデータ」だけを見ていては有効な打ち手を見つけるのは難しい。そこで当社では、「再来店率とQSCスコア」をかけ合わせて店舗状況を把握しています。


【図4】「再来店率×QSCスコア」の見える化

【図4】「再来店率×QSCスコア」の見える化|(飲食店)店舗の力量の見える化事例|(株)MS&Consulting提供

※横軸:ミステリーショッピングリサーチ(顧客満足度調査)、縦軸:予約管理システムのデータを利用。


例えば、上記【図4】左上の、K店の再来店率は32%と高い。このデータだけで判断すると「特に問題はない」ということになります。

ところが、「再来店率×QSCスコア」で診断すると、再来店率は32%と高いが、QSCスコアは3.8と多店舗と比べて低く、じりじりと顧客離れが起こる可能性が高いということが分かります。

K店では、非常に優秀な料理長が異動した穴がまだ埋まっていないという問題がありました。このデータから、「常連様が多い今のうちに彼が抜けた穴を埋める手を打つことが最優先」と判断しました。

このように、「再来店率」と「QSCスコア」をかけ合わせることで店舗の状況がより掴めるようになります。


【見える化②】改善の優先順位リスト

「再来店率×QSC」で店舗のコンディションを把握したら、店舗に何を取り組ませるかを具体的に決める必要があります。この時は「優先順位」を重要視しています。何でもかんでも気になったことを店舗に取り組ませていては業績改善につながらないからです。

当社ではMS&Consulting社の協力を仰いで、これまでに実施した顧客満足度調査結果のデータを分析してもらい、「再来店率への影響度が高いQSC項目表」を作りました。例えば、A店では「入口対応」「提供スピード」を中心に据えて取り組み、結果、9%程だったリピート率が20%前後にまでなりました。

【図5】再来店率の推移/A店:2018年4月~2020年3月

【図5】再来店率向上事例|店舗の力量の見える化による顧客リピート率改善事例|グラフ(飲食)


【見える化③】従業員満足度×顧客満足度

データによる各店舗の力量の見える化、最後は「従業員満足度と顧客満足度のかけ合わせの見える化」です。最終的にはチームができていないと業績は持続しません。ですから各店舗のチーム状況の観測も大切にしています。

ただ、目指すチームは「学生サークルのような仲良しチーム」ではなく、「皆で目標を目指せる真のチーム」です。そのため従業員満足度が結果として顧客満足度につながっているかを把握するために、2つのデータのかけ合わせで店舗状況を診断するようにしています。

【図6従業員満足度×顧客満足度

【図6】従業員満足度調査×顧客満足度|店舗の力量の見える化事例

※横軸:tenpoketチームアンケート(従業員満足度調査)、縦軸:ミステリーショッピングリサーチ(顧客満足度調査)のデータを利用。


ちなみに、弊社が実施している従業員満足度調査は、MS&Consulting社の「tenpoketチームアンケート」ですが、調査項目 が「リーダーシップ」「チームの遂行力」「チーム風土」「スタートの主体性」「スタッフの満足度」と5つのカテゴリに分かれています。

この5つのカテゴリと顧客満足度のデータの関係を見ていくと、店舗改善までつなげるためには「店長リーダーシップ」「チーム遂行力」スコアが重要ではないか感じています。今後は顧客満足度につながる従業員満足度の優先事項も見える化することが可能ではないかと思います。


【図7】tenpoketチームアンケート/5つのカテゴリ

従業員満足度調査5つのカテゴリ|MS&Consulting tenpoketチームアンケート


「データの見える化」が判断の助けになることは多々あります。例えば、金曜日19時頃は新規ご来店のお客様が多いということが分かれば、「金曜日19時頃はお店のことを知ってもらうための接客が必要」と判断ができます。見える化したデータは複数店舗を統括するマネージャーが店舗のコンディションを判断する時の参考にしています。

コロナ禍を経て、お客様がお店を選ぶ基準は厳しくなってきていると感じています。その時代を戦うためにも、「経験と勘」と「データ」の総動員での店づくりを進化させていきたいと考えています。

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取材:2021年3月16日
取材・文:株式会社MS&Consulting 外食事業部 コンサルタント 染谷 朋江
※記載の数値や固有名詞などは取材当時のものです。

遠山啓之(とおやまひろゆき)氏
遠山啓之(とおやまひろゆき)氏
株式会社LEAD LIVE COMPANY 取締役副社長、日本フードビジネスコンサルティング協会 理事。 2000年、株式会社グローバルダイニング入社。複数店の店長を経験したのち、高いサービス構築力を見込まれ1日で1組のお客様が入るかどうかだったフレンチレストランの店長に就任、月商1400万円の繁盛店へと立て直す。2013年、株式会社プレジャーカンパニー入社。サービスマネージャーとして、現場勤務とともに、接客の理論化、教育の仕方の教育、組織づくりなどを担当。株式会社プレジャーカンパニーの教育担当としての活動は続けながら、2020年11月、株式会社LEAD LIVE COMPANYの創業メンバーとなり活躍の幅を広げている。著書に「サービスのチカラ 店長マネジメント編」「サービスのチカラ 今からできる!笑顔のアクション接客編」がある。

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