「感動リレープロジェクト」と「働きがい診断」が両輪 現場スタッフが輝けるマネジメント
KCJ GROUP株式会社
『季刊MS&コンサルティング 2014年夏号』掲載
取材・編集:西山 博貢、宮本 紗和/担当:金澤 則幸
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
キッザニアは、リアルな社会体験を通して子どもたちが未来を生きる力を育んでいくことを目的につくられた職業・社会体験施設。キッザニア東京・キッザニア甲子園の2施設で年間170万人以上が訪れる人気ぶりだ。キッザニアを運営するKCJ GROUP 株式会社では、「スーパーバイザー(以下、ZV※)」と呼ばれる約1,500名のアルバイトスタッフが運営の要を担っている。そこで、2012年、「お客さまにどうしたら感動していただけるかを“皆で”考える」ことをテーマにした「感動リレープロジェクト」を発足。そのきっかけとしてミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を2012年夏より実施してきた。さらに、2013年秋からは「働きがい診断」を定期的に実施し、働きがいのある組織づくりに全社を挙げて取り組んでいる。同社取締役 常務執行役員 キッザニア事業本部長の能勢幸次氏に、取り組みの背景について伺った。
※メキシコではSをZと表記するため、本部をメキシコに置く同社は各国共通でスーパーバイザーをZVと呼称している。
※従業員満足度調査「働きがい診断」は「tenpoket」に名称変更しました。
「感動リレープロジェクト」とは?
キッザニアは、パビリオンの順番や決められたルートなどがあるわけではなく、たくさんあるパビリオンの中からこども達がやってみたいことを自由に選んで体験してもらう形となっています。こども達はいろいろなシーンでスタッフとコンタクトを取ることになるわけですが、その一回一回、すべてに感動していただけるレベルのおもてなしをして、入場から退場まで、その感動をバトンリレーのように引き継いでいきたいという、接客の理想をプロジェクトの名前にしました。
予備知識のないスタッフに「覆面調査」と言うと、粗探しをされて給料が減らされるというような誤解を招きかねなかったので、いかにお客さまに喜んでもらえるかを考える、前向きな取り組みなんだということを分かってもらいたかったのです。
KCJ GROUP 株式会社 取締役 常務執行役員 キッザニア事業本部長の能勢幸次氏。「すべての根っこは“気遣い”」にあると話す。
「感動リレープロジェクト」の主眼は、「どうしたらお客さまに感動してもらえるか」を主体的に自分たちで考える風土をつくるということです。各施設に700人を超えるZVがいて、絶えず人の入れ替わりもある中で、企業風土をつくり、根付かせていくのは簡単なことではありません。しかし、MS&Consultingさんにも研修会などを上手に運営していただいて、現在プロジェクトは3年目に入りましたが、だいぶムーブメントができてきたと思っています。例えば、各ユニットでZVが自発的に「どうすればお客さまにもっと喜んでもらえるか」というテーマの会議を定期的にやってくれるようになりました。本当に嬉しく、ありがたいことだと思います。「自発的」というのが、特に大事ですよね。お客さまと日々向き合っているのは、彼らですから。
子ども達の職業体験をサポートする「スーパーバイザー」と呼ばれるアルバイトスタッフ。子どもと向き合い、子どもの気付きを引き出し、見守ることが役割。
ある研修会で、講師の方が「この3日間で感動した話を教えてください」と質問されたんです。突然の質問ですから、考えている時間はないわけですが、皆、次々と素晴らしいエピソードを発表するんですよ。つまり、感動するような場面に、日常的に接しているということですよね。そういう、毎日何かしらの感動を感じている彼らが、その感動をお客さまにお返しするためにどうしたら良いかを考える、これはものすごく大事なことだと思います。
空港の入場ゲートから受付を行い、子どもたちは90種類以上の「アクティビティ」と呼ばれる仕事や習い事、サービスの中から好きなものを選んでチャレンジする。
成長記録シート
研修時に使用する成長記録シート。各パビリオンのマネージャー同士が集まる研修で、子どもや保護者の方とのコミュニケーションをさらに円滑にするための事例や、日々の素敵なエピソードなどを共有するためのツールだ。
「働きがい診断」の導入の背景を教えてください。
「働きがい診断」は1年半前に導入しました。「感動リレープロジェクト」が対お客さまの取り組みであるのに対して、「働きがい診断」は対スタッフの取り組みであり、この二つが車の両輪になっています。「感動リレープロジェクト」の主役は、サービスのフロントラインに立つZVたちですが、彼らをマネジメントする立場の人も成長しなければならないという話をしている中で、「感動リレープロジェクト」のように、より自発的に「マネジメント力を磨こう」とか「スキルを高めよう」と思えるような動きをつくれないかということになり、「働きがい診断」の実施を決めました。
この間、匿名で回答されたZV約700名のコメントを全部読みましたが、一人ひとりがどんなことを考えているのか、よく分かります。スタッフの声は、鏡そのものです。各項目5点満点の評価で、2点、1点を付けている人たちのレポートは本当に読むのも辛い感覚ではありますが、そういう部分こそ、会社が改善しなくてはいけないことです。お客さまからの声と同じで、我々が至らない点の方法論を教えてもらっているようなものですから、ES(社員満足)を向上させるためのありがたい言葉として受け止めています。
社長の住谷氏は時間の許す限り週末には館内を回り、現場とのコミュニケーションを図っている(写真はスタッフによる誕生日のサプライズ)。
マネージャーへのサポートはどうされていますか?
会社全体で目標管理シートを導入しているのですが、マネージャーがチームマネジメントをしやすくするために、チームの皆がマネージャーのことをどう思っているか、それに対してどうしていくかなど、何をいつまでにするかという具体的な進め方などについて、上長が相談に乗ってあげるという体制があります。
また、「業務が多くてなかなか現場に集中できない」という問題が見えてきましたので、半年前に、最も多くの時間を使う事務作業であるシフト組みの仕組みを大きく変えました。シフトを組むための専任チームを作り、700人分のシフトをそのメンバーで組むようにしたのです。過去のデータから入場者数の推測ができ、そこからパビリオンごとに必要な運営人数も計算できます。各ZVがどのパビリオンのプログラムを担当できるかという情報も登録されていますので、それをマッチングして、自動的にシフトが組めるようなデータベースを開発しました。
これによってシフト組みの業務の半分くらいがなくなり、マネージャーはスタッフとのコミュニケーションや、チームビルディング、接客などに使える時間が大きく増えました。結果として、お客さまや社員の満足度を高めることにつながっています。
メガネショップでは、メガネに目を守る役割があることを知り、生活の中でメガネを使うことの楽しみや役割を感じてもらう。また、自作のサングラスを持って帰ることができる。
アルバイトの評価制度はどのようにされていますか?
7教科21科目のZV向けの研修制度を用意しています。それらを履修していくことで、給料やステージが上がっていくようになっています。ステージというのは、待遇というよりも、ステイタスですね。ステージごとにバッジの色が決まっていて、一番上がダイヤモンドの銀、その次がルビーの赤、サファイヤの青…という風に。勤続年数ではなく、プログラムを履修してスキルが上がることによって、ステージアップしていくという仕組みです。
体を動かすことが好きな子どもたちには、インストラクターの指導のもと、「チアリーディング」や「テニス」「ヒップホップダンス」などいろいろな運動プログラムが用意されている。
ステージの一番上の階層の人を「プレミアスーパーバイザー」と呼んでいるのですが、プレミアスーパーバイザーはものすごく少なくて、各施設に約700名いるZVの中、半期に1~2人しか出ません。社内では「プレミアスーパーバイザーは、接客現場においてはマネージャー層より重要で素晴らしい人です」という位置付けになっています。たとえばメディアからの取材に出てもらうとか、海外の研修に参加してもらうなど、契約形態はアルバイトのままで待遇が極端に上がるということではありませんが、彼らこそがキッザニアが誇るスタッフなんだ、キッザニアの代表なんだ、という位置付けですね。
サービスを提供する体験だけでなく、お客さまとして、スキンケア、メーキャップ、ネールの体験ができる。
評価によって時給を上げることも大事ですが、この会社にいて良かったとか、楽しいとか、仲間を身近に感じられるということのほうが大切だと思っています。毎年、繁忙期の夏になると、社員向けのプログラムが出てくるんですよ。今年は「パウンドステーキプログラム」というのをやります。働いた時間に応じて、ステーキ肉の手当てが出るんです。はじめはお金で渡そうと思っていたのですが、このほうがスタッフ皆で楽しめるんじゃないかと。全体会議で発表したら、みんな大喜びでしたよ。地鳴りがするんじゃないかというくらい(笑)
ベーカリーでは小麦粉やイースト菌などパンの素材や作り方まで教わり、後から自分で食べることも可能。
マネジメントにおいて意識されていることは?
皆それぞれ、知識なり、背景なりに差がありますから、何かを伝える際には、「ここまで言わなくても分かるだろう」ではなく、理由や背景から丁寧に伝えるということが必要だと感じています。
それを実感したエピソードがあります。私がこの会社に入社してすぐ、「センターへの出入りの際は、必ず一礼する」というルールをスタッフ全員に伝えたのですが、最初は誰もやりませんでした。それで、休憩中のZVに、どうしてやらないのかと聞いてみたら、「なんで頭を下げなきゃいけないんですか?」と逆に聞かれてしまいました。私の感覚では当たり前だったのですが、「私たちの世代のマナーは、若い世代には分からないんだ」と、そこで初めて気が付きました。それで、「センターは、お客さまがお金を払って入場している、つまりお客さまの空間なのだから、そこに出入りするということは、他の人の家に出入りするのと同じだよ」と説明したら、すごく納得して「いい話を聞きました」と言ってくれたのです。その後、朝礼などの機会を活用して、ルールを決めた理由についてきちんと説明するようにしたところ、それから3ヶ月とかからず、一礼のルールが浸透しました。
子どもたちは目をキラキラさせながら思い思いのパビリオン(体験施設)でアクティビティ(職業・役割)を体験する。
最後に、今後の目標についてお聞かせください。
お客さまに対しても、スタッフに対しても、すべての根っこは“気遣い”だと思っています。気遣いとは、決められたことをやるのではなくて、良かれと思って自分で能動的に行動することです。気遣いをどこまでできるか、それが当社の方針です。
「キッザニア」という名前には、「楽しい子どもたちの国」という意味が込められており、入場ゲートの先には実物の約3分の2サイズで作られた街が広がっている。