「楽しい」ではなく、「楽しむ」 チーム全員で取り組む秘訣とは
株式会社ジリオン
取材:染谷 朋江
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
従業員満足度調査「tenpoket」の平均点を3.7点(5点満点)から、わずか半年で4.7点※に上昇させた株式会社ジリオン「和ビストロJB」神田店、店長の新見友氏。従業員満足とは、「楽しい」ではなく「楽しむ」と述べる新見氏に、その意図をお伺いした。
※tenpoket」のサービス業平均:3.7点、上位20%の優良店平均:4.2点(平均値は、tenpoket全40項目の平均値を示しております)
※「HERB診断」は「tenpoket」に名称変更しました。
――店長として、店舗経営をする上で一番大切にしていることを教えてください。
「お客さま、スタッフ、お店」の3つを常に意識して経営判断をすること、そして、この考え方をスタッフとも共有することを大切にしています。
顧客満足(以下、CS)は、従業員満足(以下、ES)があって初めて成り立つと考えています。スタッフが楽しく働けなければお客さまにも楽しんでもらえないですし、スタッフ同士で気を利かせられなければ、お客さまにも気の利いた接客はできないと思っています。同時に、ESを考える時、「CS」や「お店」の視点がない、仲間内だけで楽しいESとなってはいけないとも考えています。ESとは、「楽しい」ではなく「楽しむ」という感覚でしょうか。
例えば、ホールスタッフであれば、車が駐車場に止まったとき、色は何色で、車種は何で、ナンバープレートは○×△など、そんな風に幅広く観察した上で、自分は何をお客さまにお伝えできるかを考える、そんなことを楽しんでできている状態。料理人なら、例えば、お店で他より高いおいしそうなトマトを売っていたら、どうやって調理すれば、他店と違うよりおいしい料理を作ることができるかと、自然に、そして、楽しんで考え始めるような状態。それが理想のESだと思っています。スタッフ一人ひとりが、お店のオーナーのような感覚でやってもらえたら理想だと考えています。
――「お客さま、スタッフ、お店の3点が大切」という考え方をどうやって浸透させていますか?
スタッフ一人ひとりに合わせたタイミングと伝え方を大事にしています。個人面談であらたまって伝えるということはしていないです。スタッフを観察して、気持ちを予測することを心掛けて、「ここだと思ったタイミング」で言います。
CSの大切さや楽しさを伝える場合だったら、スタッフを観察して〝迷っているタイミング〟に伝えます。例えば、スタッフが、お水を右から出そうか、左から出そうか、それとも、間に入って出そうか…、どれがベストかと迷っているタイミング。基本ができるようになって、お客さまが見え始めている…というサインですので、そんなときに声をかけて、「お客さまの何を観察すればいいのか」を伝えます。そうすると、CSの面白さに気付いてもらえます。
「お給料は、お客さまのお財布から出ている」などということも伝えます。例えば、時給が上がったときに、「次に時給を上げるために何ができると思う?」と聞きます。そうすると、「わかりません、どうしたらいいですか」などと質問が返ってきますので、その流れで、「お給料は、会社から出ているのではなくて、お客さまのお財布から出ている」こと、だからこそ、「普通のサービス+αの感動を与えるためにアクションを起こす、これも時給の中に含まれている」ことや「現状のレベルと、目標金額になるためのギャップ、そのためにどんな技術が必要か」といった点を伝えることもあります。伝え方はいろいろですが、こんなふうに相手に合わせて、言葉を選んで話すようにしています。とにかく、スタッフをよく観察することを常々意識しています。
――「tenpoket」」の結果が格段に改善されていますが、結果をどう読み解きましたか?
最初に考えたのは、いくつかの項目で5点満点を目指すのではなく、全項目を4.5点以上にしようということです。良い項目と悪い項目がある状態より、全体的にバランスが取れている方が良いと思いました。なので、一番点数の低い項目にフォーカスを当てて取り組むのではなく、3点台の項目を満遍なく改善できる取り組みを発見することに力点を置きました。
当時のES担当の小林シェフと話す中で、「うちのお店では、クレドに取り組むことがESもCSも全体的な改善につながるのでは」という結論になりました。クレドには、お客さまへのアクションや、スタッフとしての心構えなどが、バランス良く書かれています。それに、クレドは入社時にはテストもあり、その後も「覚えていますか?」「実践していますか?」と度々確認があります。そこで、最初からみんなが共通して持っている価値観を強くしていけばいいのではないかという結論になりました。
――ES向上について、どのようにスタッフで取り組まれましたか?
日頃から、業績、ミステリーショッピングリサーチやtenpoketなど、店舗経営に関わる情報を共有するようにしています。tenpoketにはリーダーシップの評価、つまり、上司である私への評価もありますが、それも共有します。基本的に、掲示での情報共有をしてもスタッフは見ないため、回覧板にしています。その上で、読んでいないと分からないようなことをスタッフに質問して、ちゃんと読んでいるか確認をしています。
さまざまな「お店の情報」が共有されている状態で、tenpoketについてのミーティングをしました。スタッフの意見を聞かないで、店長とシェフがスタッフに「よーし、お前らESあげるぞ!これに取り組むぞ!」と言ってしまったら、みんな多分やらないでしょう。何でやるのか分からないですから。そこで、tenpoketの結果を共有して「これについてどう思う?」と聞いた上で、次に「どうしたいか」を話し合いました。最終的には、スタッフみんなの意見も、シェフと事前に考えていた「クレドへの意識をもっと高める」という課題になりました。みんなで議論した上での結論として取り組んでいなかったら、「何でクレド?常に意識しているし」となったかもしれません。ミーティングで、みんなの意識レベルを揃えられたと思います。
――クレドについての具体的な取り組みとその成果を教えてください。
クレドを強化するために朝礼の内容を変えました。黒板に今日の目標を記載するスタイルに切り替え、「売上」などとともに「本日のクレド」の目標も決めるようにしました。
「本日のクレド」を決めただけではうまく機能しないので、最初は「あのスタッフ、クレド忘れているな」と思ったら、僕が「今日これですよ」と、そのスタッフに伝えるようにしました。ただ、それだと全員をカバーできないので、今は「本日のクレド」の評価を翌日の朝礼でフィードバックしています。その際、キッチンスタッフが決めたクレドに対してはホールスタッフが、ホールスタッフが決めたクレドに対してはキッチンスタッフが評価するようにしました。違うポジションの方が外から見ることができるので客観的に評価できますし、営業中にいい意味で「見られている」という意識も生まれます。
弊社では年に2回tenpoket、毎月プチtenpoketを行っているのですが、半年前の平均点は3.7点でした。先月の平均点は4.7でしたが、3点台の項目がありました。今月は平均点は変わりませんが、3点台がなくなりました。クレドの強化に取り組むことで、点数が上がったのはもちろん、全体的なバランスも良くなってきました。
黒板には、
①予算(今月予算、今月累計予算など)。
②今月のCS徹底項目(前月のミステリーショッピングリサーチに書かれたコメントから1つピックアップ)。
③本日のクレド(キッチンとホール毎に、本日特にフォーカスしたいことを決定)
などを記入している。
――チームマネジメントをする上で一番大切にしていることを教えてください。
一番大事なことは、リーダーの言葉遣いと雰囲気だと思います。それがないと、何も伝えることはできないと思っています。