逆風に立ち向かうシナリオ|株式会社イートファクトリーホールディングス【経営者インタビュー】
屋台居酒屋『大阪満マル』をはじめとする飲食事業で86店舗(直営・FC含め)を展開する株式会社イートファクトリーホールディングス代表取締役山口 功氏に、新型コロナウイルスによる影響と対策についてお話を伺った(インタビュー日: 2020年3月16日)。
新型コロナウイルスの猛威によって、想定外の変化を迫られているかと思います。御社の現状をお聞かせいただけますか。
おっしゃる通り、新型コロナウイルスの影響により、大きな変化を迫られていると感じています。弊社の状況で申し上げますと、2020年2月中旬までは軽微なダメージに留まっておりましたが、2月下旬以降にその影響が大きくなっております。店舗や立地によってバラツキは当然ありますが、3月中旬時点では、既存店の平均値を取ると、売り上げが前年対比で30%ダウンくらいのダメージを受けております。
詳細はどのように分析していますか。
弊社の主力業態の「満マル」についても、立地・エリアによって傾向が違います。業態の特徴として、地域に深く根差しており、地域のファンに深く愛されている店舗は、3月度に入ってもかなり健闘しております。
反対に、観光に経済が支えられているエリアの店舗や、宴会需要が大きな店舗については、ダメージが大きいです。また、これも業態の特性ですが、宴会の二次会利用でご利用いただくケースもかなり多いのですが、宴会の絶対数が減少しておりますので、二次会利用の売り上げも減少しております。
この局面の中で、経営者として意識をしていることを教えて下さい。
まだまだ市況的には、予断を許さないものの、私個人の感覚としては、新型コロナウイルスにおける売り上げのダウントレンドは、今月来月が底であると考えています。
しかし一方で、先行きの不透明感も色濃い状況を踏まえると、楽観的に捉えてもいけないと思います。ですので、この局面では、2軸での思考を意識しています。そして、どちらかに偏ることなく、両軸で思考を進めることがポイントだと捉えています。
❶「最悪」を想定し、いろいろなケースでのシミュレーションを繰り返す
❷「ピンチはチャンス」と捉え、発想を転換し、「今できること」を積極的に実施する
2軸について詳しく教えていただけますか。
❶については、皆さんも対策をされているかと思いますが、まず一番に意識をすることはキャッシュフローです。今回の危機に対して、国や自治体からの様々な支援策が提供されるとのことでしたので、そちらを積極的に活用することはもちろんですが、さらに悲観的に掘り下げていくと、二の策、三の策が必要になってきます。策としては、人員の最適化を再度検討したり、保有資産の現金化などを検討しています。大事なことは、自社の財務状況のステージに応じて、対策を整理することだと思います。しかも、一段階で終わりではなく、このステージに突入したら、この対策ということを何段階も設定し、シナリオを用意することを意識し、検討を進めております。
❷については、いろいろな考え方があるかと思うのですが、弊社では、「強固な基盤創り」をスローガンに改善を進めております。コントロール外の要素で売り上げが減少している事実をしっかりと受け止め、嘆くだけではなく、「この売り上げトレンドでも利益がしっかり残る店舗」にするために何をすべきかと考え、実行に移すことが重要かと思います。
現場メンバー向けには、どのようなメッセージを伝えていますか?
先ほども申し上げました要素も入っておりますが、大きくは2つです。
❶こういう時こそ「理念」に立ち返りましょう。
●このような時でもお店に来て下さるお客さまに感謝し、今こそ「笑顔」「元気」「感動」を提供する
●お客さまのことをしっかりと考え、実行する努力を継続する
❷今こそ「強固な基盤」を作りましょう。
●今の売り上げでも利益の出る店舗創り
●FLにおける極端なエラーを無くす
●変動トレンドを捉えた仕入れをさらに進化させ、最適化する
●ケータリングとテイクアウトを事業化する
この局面での「店舗経営におけるマネジメント」として、メンバーにどの要素を意識させていますか。
PLにおいて一番フォーカスしているのは、「人時売上高」です。売り上げが下がっている中で、キャスト(パート・アルバイト)の出勤を控えていただくケースも増えており、普通に営業してしまいますと、人件費率が上がってしまいます。通常月における「満マル」の人時売上高のターゲットは4千円に設定しておりますので、この局面でも人時売上高4千円を維持できることをゴールに、現場の皆さんにアイデアを求め、いろいろな工夫や対策によってゴールを達成することをお願いしています。しっかりとPLの要素の中で的絞りをして、お伝えすることが重要だと思います。既に、様々なアイデアや仕組みが形になっていますので、今回をきっかけに、基盤が強固になることを実現したいと思っています。
最後に一言ご総括をお願いします。
いろいろと大変な局面でありますが、ポジティブな発想をすると、「今まで実行できなかったことが、実行できるチャンス」と捉えることが可能だと感じました。この局面にしっかりと向き合って、基盤の強化を進めていきたいと思います。
山口社長流「逆風に立ち向かうシナリオ」の整理
■「2軸の思考」を用意し、偏ることなくバランスを持って経営をする
軸1:「最悪」を想定し、いろいろなケースでのシミュレーションを繰り返す
軸2:「ピンチはチャンス」と捉え、発想を転換し、「今できること」を積極的に実施
■現場メンバー向けには、シンプルにスローガンとメッセージを伝える
①こういう時こそ「理念」に立ち返る ②今こそ「強固な基盤」を作る
■マネジメントは、「人時売上高」に的絞りをして、対策を加速する
人時売上高4,000円の維持をゴールとして設定
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。
※取材・文: 湯瀬 圭祐